​© 第10回放射光学会若手研究会

ポスターセッション

P1 石井真史 (物質・材料研究機構)

「データベースを活用した多成分試料のX線回折の高速客観分析」

X線回折(XRD)は試料が未知の多成分で構成される場合、解析は極端に難しくなる。通常、ある結晶構造を選んで回折パターンを計算し、形状パラメータを最小二乗法で最適化するが、多成分の場合はパラメータが増え、解析に長時間かかる上、解の一意性の検証は容易ではない。本研究では、多成分試料のXRDをデータベースを活用して高速かつ客観的に分析した。用いたセメントの標準試料(NIST SRM 2686a)は、Alite, Belite, Aluminate, Ferriteの主要4成分の他、微小成分としてPericlase等が含まれる。これに対し、微小成分を含む90種のコンクリートに関係する結晶の回折パターンのDBを作り、それを説明変数として実験結果を非負最小二乗回帰によってモデル化した。発表ではモデル化の精度の他、確からしい微小成分の決定法について述べる。

P2 水牧仁一朗 (高輝度光科学研究センター)

「JARSI利用促進部門におけるデータ駆動科学への取り組み」

SPring-8において日々多くの先端的な測定が行われ、多量のデータが生み出されている。しかしながら、この膨大なデータの中に存在する重要な情報を抽出することが困難な状況である。また、測定データ一つをとってもその中に含まれている情報すべて抽出できていないのが現状である。一方、情報科学の分野において多量のデータに対してそのデータ構造や特徴量抽出などに関する手法が劇的に進化している。そこで我々は、この現状を打破するために、情報技術のひとつであるデータ駆動科学を導入することを決定した。JASRI利用研究促進部門にデータ駆動科学によるデータ解析の高度化を進める専門チームを今年度初めに立ち上げた。本講演では、JASRIにおける本年度の取り組みと将来展望に関する紹介を行う。

P3 今村元泰 (産業技術総合研究所)

「シリコン酸化物極薄膜の膜厚測定のための光電子の有効減衰長の測定」

X線光電子分光法は表面敏感な分析手法として、特に非破壊で定性分析と定量分析が同時にできることが特長として広く用いられている。この定量分析の特性を生かして極薄膜のnmオーダーの膜厚測定を行うことができる。しかしそのためには薄膜を構成する物質中での光電子の減衰長を求めることが重要な課題となっている。これまで長い間、減衰長としては非弾性散乱有効減衰長(IMFP)が用いられてきた。しかし極薄膜についての分析においては必ずしも正しいとは言えない。また近年、有効減衰長(EAL)が提案されており、徐々に用いられてきているが実験的に測定した研究例は多くない。 本研究においては規定された膜厚を有するSiO_2/Si極薄膜を用いて、広いエネルギー範囲でEALを測定することで物質中での光電子の挙動への理解を深めることを目的とする。

P4 山本航平 (東京大学)

「時間分解X線磁気円二色性とカー効果で見るFePt薄膜の元素選択的磁化ダイナミクス」

光による磁性の制御は理学的にも、応用上も強い関心がもたれている。これらの研究には光を当てた際の元素ごとの磁性を捉えることが重要である。われわれはX線自由電子レーザーSACLAのBL3においてPt L端時間分解X線磁気円二色性測定(時間分解XMCD)に成功した。サンプルは強磁性体の垂直磁化FePt薄膜である。時間分解XMCDの結果から、Ptの消磁のタイムスケールが得られ、それは0.6 ps程度であった。可視光をプローブとする時間分解カー効果測定も行ったところ消磁のタイムスケールは0.1 ps程度であった。可視光プローブのカー効果測定が主にFeの磁性を捉えるとすると、この結果はFeとPtの消磁のダイナミクスが異なることを示唆する。

P5 柴田基洋 (理化学研究所)

​「磁気スキルミオン集団の実空間観察と画像解析」

ナノメートルサイズの磁気渦構造である磁気スキルミオンは、粒子的な振る舞いや様々な外場応答を示すことから注目されている。磁気スキルミオンは面内磁化分布を可視化するローレンツ透過型電子顕微鏡(LTEM)により、実空間分布が直接観察できるため、磁気スキルミオンの空間分布やそのダイナミクスの分析に有用である。しかし、磁気スキルミオンの粒子的振る舞いの考察には、LTEM像から磁気スキルミオンの位置や磁気構造の分布を抽出する必要がある。 本発表では、LTEM像について機械学習を含む粒子解析やパターン認識の手法を通して磁気スキルミオンの位置抽出や磁気ドメイン分布の可視化を行い、磁気スキルミオンの配列構造やその外場変化に対する振る舞いを調べた例を紹介する。

P6 鈴木雄太 (東京理科大学)

「機械学習によるX線回折データからの結晶系推定」

無機結晶構造データベースに登録された結晶構造からXRDパターンをシミュレーションして教師データとし、機械学習により結晶系および空間群の予測モデルを構築した。特徴量には材料科学的知見からピーク位置等を選択した。結晶系について90 %以上、空間群について80%以上の予測精度が得られた。予測はXRD1本あたり1 ms以下である。当日はXRDデータベースの拡張と実用上の課題について議論する。

P7 野中洋亮 (東京大学)

「Si基板上に作製したスピネルフェライトにおける基板界面での磁性と価数分布の分析」

近年、Siにスピン偏極電流を注入する手法として、Si基板上に数nmのスピネルフェライト極薄膜をエピタキシャル成長させた構造が、スピンフィルターというデバイスとして注目されている。 このスピンフィルターの性能向上の鍵となるのがスピネルフェライト極薄膜の磁性であるが、極薄膜では磁性が弱いという問題が知られている。 本発表では、X線吸収・X線磁気円二色性スペクトルをクラスターモデル計算を利用して解析し、スピネルフェライト中で磁性を担うイオンの価数が基板界面で不均一に分布していることが、磁性が弱い一因であることを報告する。 また、実験結果として得られるスペクトルを解析する過程を紹介し、放射光実験で得られたスペクトル形状の定量的な分析におけるインフォマティクスの活用について議論したい。

P8 北村未歩 (高エネルギー加速器研究機構)

「ペロブスカイト型遷移金属酸化物LaNiO3/LaMnO3 へテロ構造における界面強磁性の起源」

ペロブスカイト型遷移金属酸化物LaNiO3(LNO)/LaMnO3(LMO)ヘテロ界面では、非対称な空間分布を有する電荷移動が起こる。本研究では、この非対称な電荷分布と界面で発現する特異な強磁性特性の関係を明らかにするために、X線磁気円二色性測定を行った。その結果、バルクでは常磁性のLNOに、電荷移動により価数変化した界面1 MLの領域でのみ磁化が発現していることが明らかとなった。一方で、LMOでは、移動した電荷が界面3-4 MLの領域に広がることにより強磁性が安定化し、さらに、LNOとLMOの磁化は強磁性的に結合していることが分かった。このことから、LNO/LMO界面においては、移動した電荷の空間的広がりが特異な界面強磁性を理解する鍵であると結論付けた。

P9  永村直佳 (物質・材料研究機構)

「走査型光電子顕微分光スペクトルイメージングデータ解析の機械学習による高速化」

放射光X線をプローブとした分析技術では、計測の高分解能化が世界的に進んでいる。必然的に取り扱うデータは膨大となり、従来の手法では解析が追いつかない事態が想定される。入射光を光学素子で集光し、試料を走査して光電子分光を行う走査型光電子顕微鏡(SPEM)では、スペクトルイメージングが得られる。SPring-8東大ビームラインに設置してあるSPEMでは深さ方向分析とオペランド計測も可能であり、原理的には空間3次元+外場+時分割の多次元イメージングが可能だが、実現には大規模スペクトルデータを高速処理する技術が不可欠である。そこで光電子ピーク分離を自動的に行う高速アルゴリズムを考案し、手動解析の結果と比較して評価を行った。次に2次元スペクトルイメージについて、擬似スペクトルデータを使ったモデルから、スペクトル推定に加えて分布推定の導入を検討した。当日は実際の実験データへの適用例も交えて議論する。

P10 横山 優一 (物質・材料研究機構)

「情報欠損した回折図形からのスパース位相回復アルゴリズム」

コヒーレント軟X線回折イメージングでは逆空間におけるスピンの空間分布を観測することができるが、実空間に変換するには位相情報を回復する必要がある。我々は、スパース性を事前情報として取り入れた位相回復アルゴリズム(SpPRA法)の開発を行った。これにより、情報欠損した回折図形からも位相を回復できることが可能になった。ポスター発表では、シミュレーションによりSpPRA法と従来の位相回復アルゴリズムを比較した結果について議論する。

P11 志田 和己 (大阪大学)

「ナノビームX線回折法を用いた半導体結晶の深さ分解結晶構造解析」

高機能電子・光デバイスの実現には、その材料となる半導体結晶の高品質化が不可欠である。結晶中の欠陥はデバイス性能に直接影響するため、欠陥低減に向けた成長プロセスの開発が進められている。一方、プロセスの更なる改良には、作製された結晶の欠陥構造を詳細に評価し、結果をフィードバックすることが重要である。デバイスの微細化が進む当該研究分野では、nm級の空間分解能をもって、かつ深さ方向の構造変遷を捉える技術が求められる。SPring-8のBL13XUにおけるナノビームX線回折(nanoXRD)光学系は、数百nmの高い空間分解能を有し、非破壊・定量的に結晶構造を評価できる唯一無二のプローブである。しかし、X線回折の原理上、結晶深さ方向の情報は平均化されるため分解することができない。そこで本研究では、nanoXRDを利用した深さ方向の構造変化を取得する手法を新たに考案し、3次元的な結晶構造の評価を行った。

P12 中島 多朗 (理化学研究所)

「Stroboscopic SANS測定による磁気スキルミオン急冷過程の直接観察」

磁気スキルミオンは長周期らせん磁性体等において現れる渦状のスピン構造であり,代表的な磁気スキルミオン物質であるMnSiでは,転移温度直下の限られた領域において「スキルミオン格子相」が現れることが過去の中性子散乱実験によって報告されていた.最近,このMnSiにおけるスキルミオン格子を急冷することにより,低温でも準安定状態のスキルミオン格子が実現することが報告された.本研究ではJ-PARCの中性子小角・広角散乱装置「大観」において,中性子パルス(25 Hz)と電流パルス(10秒に1パルス)を同期させたStroboscopic SANS測定を行い,急加熱・急冷による準安定スキルミオン状態の生成過程を時分割測定することに成功したので報告する.

P13 木村 隆志 (北海道大学) 

「コヒーレント回折パターンの特徴抽出による X線自由電子レーザーイメージング高度化の試み」

ナノ構造体の形成や生体超分子の乖離・結合など、科学上重要な数多くの現象が液中において生じる。こうした現象を、周囲の溶液環境を保ち自然な状態のままイメージングすることは、試料本来の構造を調べ、生物学や化学上の挙動を理解する上で欠かすことができない。オングストロームの波長と10 フェムト秒以下の超短パルスという特徴を持つX線自由電子レーザーを利用したイメージングでは、放射線損傷や試料固定といった、従来の高空間分解能顕微法において課題となっていた問題を排除して、液中における自然な状態のままの試料構造を観察することが可能になる。本発表では、XFELによるシングルショット計測で得られたコヒーレント回折パターンに対してデータ処理を施すことにより、固体電解質微粒子中の微細構造の検出や、微量混合溶液中のナノ粒子形状変化を高空間分解能でイメージングした結果について報告を行う。

P14 宮寺 哲彦 (産業技術総合研究所)

「有機鉛ペロブスカイト結晶成長過程のリアルタイムX線回折」

有機鉛ペロブスカイト太陽電池に関する研究が近年活発化している一方で、再現性良く高い効率を発現させることが難しく、様々な製膜手法が報告されているものの、製膜プロセスに関する基礎メカニズムは研究途上となっている。ペロブスカイト結晶の形成過程を詳細に観察することにより、作製プロセス開発における重要な知見を得ることが可能となると考えられる。我々はこれまで、SPring-8における斜入射X線回折(GIXD)によりペロブスカイト結晶形成過程をリアルタイム観察する実験に取り組んできている。本手法により原料であるハロゲン化鉛とハロゲン化アミンからペロブスカイト結晶が形成されていくダイナミクスを解析することが可能となる。

P15 吉田鉄平 (京都大学)

「高温超伝導体の超伝導状態の自己エネルギー」

銅酸化物高温超伝導の角度分解光電子分光(ARPES)による研究では、超伝導ギャップが閉じているノード方向を中心に自己エネルギー解析が行われてきた。しかし、ペアリング機構を探るには超伝導ギャップが開いている状態が重要である。超伝導ギャップを含んだ自己エネルギー解析は報告例が少ないが、最近、クーパー対を表す異常自己エネルギーの解析が行われボゾンを示す構造が示唆されている。そこで本研究では高温超伝導体Bi2Sr2CaCu2O8+d (Bi2212)のARPESスペクトルから、超伝導状態の自己エネルギーを求め、さらに異常自己エネルギーを求めることを試みた。その結果、得られた自己エネルギーのエネルギースケールは、キンクのエネルギーとは異なっており、この特徴は理論計算の結果と定性的に一致していることがわかった。

P16 萩谷透 (京都大学)

「非弾性X線散乱実験を用いたアルカリ金属における電子密度応答の時空間マッピング」

非弾性X線散乱実験は、結晶から液体まで幅広い状態の物質における電子励起のエネルギーや線幅を調べられる実験手法である。非弾性X線散乱実験の研究では、これまで波数・エネルギー空間で議論が行われていたが、近年では非弾性X線散乱スペクトルをフーリエ変換することによって、電子密度応答関数X(r,t)を導出し、実空間・実時間での電子密度応答が議論されるようになってきた。本研究では、アルカリ金属に対して、SPring-8のBL12XUにおいて非弾性X線散乱スペクトルを測定し、電子密度応答関数を導出することにより、単純金属中の実空間・実時間における電子励起を実験的に調べた。弾性散乱に比べて非常に強度の弱い非弾性X線散乱スペクトルを、長時間かけて広い波数・エネルギー範囲で測定し、フーリエ変換している状態なので、インフォマティクスの手法を取り入れることで、より精度良く効率的に解析できないか考えている。

P17 小林正起 (東京大学)

「放射光分光を用いた鉄系磁性半導体における強磁性発現機構の解明」

従来の半導体技術において用いられてきた電子の「電荷」の自由度に対して電子が持つもう一つの自由度である「スピン」を利用して、限界を迎えつつある微細化技術以外の方法により新しいデバイスの創成を目指す領域をスピントロニクス(スピン+エレクトロニクス)という。磁性半導体は半導体と磁性の両方の性質を持つ物質であり、従来の半導体技術との整合性の高さから、半導体スピントロニクスの分野で鍵となる物質である。近年、鉄系の磁性半導体が室温を超えるCurie温度を示し、注目を集めている。これら磁性半導体が示す強磁性の機構を理解するためには、価電子帯のバンド構造や局所的な電子構造を知ることが必要不可欠である。講演では、鉄系磁性半導体における放射光分光結果を示し、電子構造の観点からその強磁性発現機構を議論する。

P18 仁王頭明伸 (京都大学)

「XFELを用いた単一クラスターの広角X線回折」

近年、短パルスかつコヒーレントなX線自由電子レーザー(XFEL)の出現により、単一のナノ粒子を標的としたX線回折実験が可能となっている。本研究ではXFEL施設、SACLAから供給されるコヒーレントX線を用いて、単一のXeクラスターを標的とした広角X線回折実験を行った。実験ではXeクラスター(半径~65 nm)に光子エネルギー11.2 keVのX線パルスを照射し、広角X線回折像をSACLAに整備されたMultiport CCD検出器により取得した。発表では、実験で得られた膨大な数の回折像からクラスターの構造情報を抽出するための解析手法について詳細に報告する。

P19 引田 理英 (高エネルギー加速器研究機構)

「PF-AR NW12Aでの顕微分光装置の開発とその利用」

現在の構造生物学研究においては、X線結晶構造解析法だけではなく、クライオ電子顕微鏡や分光法等の様々な手法を利用した研究が展開されるようになってきている。そこでKEK-PFのタンパク質結晶構造解析用ビームラインのAR-NW12Aでは、これまで行っていたタンパク質のX線回折実験と併せて、レーザー光や白色光を光源としたタンパク質結晶の分光測定が可能な装置の開発を行っている。本ポスターでは、顕微分光装置開発の現状及び今後の利用について報告する。また、昨年度末にSPring-8から移設した「深紫外レーザーを用いたタンパク質結晶加工機の利用」についても紹介する。